【デザイナー紹介】エリザ・デフォッセ・菊地 (前編)- 暮らしの中の「ぬくもり」をデザインに -
トレファトレファから5つのデザイン(各5色展開)によるコレクションを発表するエリザ・デフォッセ・菊地さんは、エルメスやミナ ペルホネンでのデザイン経験もある注目の若手デザイナーです。
今回、トレファトレファへの参画とコレクションの発表にちなんで、エリザさんのデザイナーとしてのルーツや表現したいこと(前編)、トレファトレファのコレクション(後編)についてお話を伺いました。
デザインに「ぬくもり」を
-デザインするうえで大切にしていることについて聞かせてください。
エリザ・デフォッセ・菊地 (以下、エリザ):常に「ぬくもり」をコンセプトにしています。自分が生地を通して人に一番伝えたいものはなんだろうと考えた時に「ぬくもり」という言葉が浮かんできました。
日本で育ったわけではないので言葉のとらえ方が少し違うかもしれませんが、私にとっての「ぬくもり」とは、温度やゆらぎ、微細なもの、変化のあるもの、間にある色、イレギュラーなテクスチャー、というイメージ。そういった「ぬくもり」の感覚を、デザインするときにとても大事にしています。
―デザインに興味をもったきっかけは?
エリザ:子供の頃から絵を描いたり、手を動かして何かを作ったりするのは好きでしたが、絵やデザインを仕事にしようとは全く思っていなかったんです。
デザインを学ぶきっかけとなったのは、高校生の時に母と訪ねたラ・カンブル大学 工業デザイン科のオープンキャンパス。私はいつも、暮らしの中にあるものにすごく興味があったので、日常的なモノとアートが融合している工業デザインというものが、心に響きました。
大学で学んでいくうちに、自分は色や素材自体にとても興味があって、そこにこだわりたいんだと気づきました。でも、プロダクトデザインで優先されるのは使い勝手や形であり、色やデザインはデコレーション的要素としての役割が強い。そこで、ラ・カンブル大学卒業後にフィンランドのアールト大学に入学し、本格的に素材と色の集合体ともいえるテキスタイルを学びました。
日本とベルギーにルーツ、そして拠点をフィンランドに
―日本とベルギーにルーツを持っていますが、それらはデザインにどのような影響を与えていますか?
エリザ:母親が日本人、父親がベルギー人で、ベルギーで生まれ育ったのですが、母が日本の食事や食器が好きで、いつも日常の中に日本のきれいなものがありました。自然から色を感じるのは日本の文化だなと思いますし、私のテキスタイルの色の選び方は、日本的だなと自分では思っています。
ベルギーの影響としてあるのは、「自由さ」だと思います。ベルギーはまだ200年くらいの新しくて小さい国だから、自由な空気を感じます。フランスやイタリアは歴史が長く、偉大な芸術家が連綿と存在してきているので、クリエイターは背負うものが多いように見えるんです。
それに比べるとベルギーは、白紙のような感じでやりやすい。歴史が浅いから比べられるものもないし、何も怖くない。フィンランドも似たような雰囲気があるので、私には合っています。
―現在、拠点を日本とフィンランドに構えている理由は?
エリザ:私は日本とヨーロッパという全く違う文化のルーツをもっていますが、フィンランドってちょうど、その中間という感じなんです。ヨーロッパの国ではあるけど、人がシャイで適度な距離があるところとか、行動や雰囲気に日本っぽいところがあって、心地いいんです。英語が通じるので仕事がしやすいというのもあります。
日本は、自分のアイデンティティの一部なのに住んだことがなかったので、長期で滞在してみようと思ったのがきっかけです。個人と付き合ってくれる工場がたくさんあって、私のような独立系のクリエイターにとってすごく活動しやすい場所でもあります。ヨーロッパは生地を生産する工場が大きいところばかりになってしまい、個人はなかなか取引してもらえません。でも日本には少ないロットでも対応してくれる中小の工場がたくさんあって、職人さんたちもとても熱心でオープン。一人でもモノづくりができる環境です。日本のアナログ感もいい。ヨーロッパでは工場とのやりとりは全部データになっていて、紙は使わないのですが、日本では、私自身がペイントした紙を工場の人に見せて色を再現してもらったり、直接話したりという、人間同士のやりとりがあり、あたたかいなと思います。
エルメスやミナ ペルホネンでの仕事を通して学んだこと
―エルメスやミナ・ペルホネンでの仕事の経験は、エリザさんにどのような影響を与えましたか?
エリザ:どちらもすごく勉強になりました。
エルメスはアールト大学に在学中に、学校からインターンとして推薦していただき、そのままデザイナーとして働いたのですが、ビスポーク部門に配属され、最初に担当したのは、オーダーメイドの1点もののバッグのデザインでした。
エルメスで学んだことはたくさんあります。
一つは、お客様がほしいものと、エルメスというブランドのアイデンティティ、そして私がデザイナーとしてやりたいことを重ねるというモノづくりのやり方。そこに職人との対話が加わり、世界に1点しかないバッグをつくっていく。エルメスは職人を本当に大切にしています。
もう一つは、質を見極める目を養うこと。シンプルなものであっても、素材が本当によければ色や手触りでそれは伝わる。また、質の良さは見えるところだけでなく、見えないところへのこだわりで決まるということも学びました。見えないところまで含めたディティールへのこだわりは、オブジェを通して伝わっていくものなんだということを実感しました。あとは、スピード。とにかくみんな仕事が早かったです。
ミナ ペルホネンはインターンで入らせていただきました。こちらでも、職人や工場への深いリスペクトを感じましたし、モノづくりへの熱意を感じました。刺繍屋さんやプリント工場にインターンの私を連れて行ってくれて、仕事をさせてくれたことが、とてもありがたかったです。いま、自分の仕事でも、日本の工場に電話をしたり、訪ねたりするのに躊躇がないのは、この時の経験が大きいです。
※後編では、トレファトレファでのコレクションについて詳しく伺っています。ぜひご覧ください。
エリザ・デフォッセ・菊地 / デザイナー
ベルギー、ブリュッセル出身。ベルギーのラ・カンブル大学で工業デザインを、フィンランドのアールト大学でテキスタイルを学び、卒業後はフランスへ渡り、エルメスのビスポーク部門でデザイナーとして従事した後、2021年ヘルシンキにて自身のデザインスタジオを設立。2024年にはライフスタイルブランド「nuku」をスタート。
フィンランドと日本を行き来しながら、テキスタイルデザインを中心に、プロダクトデザイン、インテリアデザイン、ファッションデザイン、コンセプトデザインなど、様々な分野で活動。自然や日常生活から受けたインスピレーションをもとに、繊細な色やマテリアルを通して「ぬくもり」を感じさせるデザインを目指している。